進化論の衝突:発生バイアス

しつこく続きます……

Does evolutionary theory need a rethink? : Nature News & Comment

発生バイアス (developmental bias)

発生バイアスとは、生物の発生過程では変化しやすい部分とそうでない部分があるということらしいです。この変化のしやすさの偏りがあるせいで、生物の表現型が必ずしも「なんでもあり」にはならず、環境の類似性などによって、似たような形態が異なる場所で出現しうる、というのが改革陣営の主張です。彼らは例としてマラウイ湖タンガニーカ湖に棲む魚の頭やあごの形の共通性を挙げています。また、これを従来の総合説で説明するとしたら、いわゆる「収斂進化(convergent evolution)」しかあり得ないのですが、偶然の一致にしてはよく似すぎている、となる訳です。とはいえ、従来理論も発生などの物理的な制約の影響は無視している訳ではないと思うので、発生バイアスというのがそこまで画期的なことかと言われると、よくわかりません。発生バイアスも進化の原因(の一つ)であるとする話の流れからすると、ある生物が現在あるような形であるのは発生のメカニズムが原因である、という意味で意義はあるでしょう。

 

ところが、これに対する保守陣営の反応はどうもすっきりしません。特定の生物のゲノムが可能な形質を範囲を制限することを認めつつも、「重要なのは形質の変異の範囲やその範囲を生み出す詳細な機構などではなくて、継承可能で、選択的に有利でありうるような差異なのだ」と言い出します。これは話が噛み合っていません。革新陣営は「この生物がこのような形質を持つに至った原因(発生学的機構)は何か」を考えているのに対して、保守陣営は「生き残る原因となる形質の差異は何か」を考えています*1。後者は有利な差異が見つかりさえすれば、満足で、その差異がどのような機構でもたらされたかということに関してはそれほど重きを置きません。この点が保守陣営が革新陣営に「あまりに遺伝子中心的だ」と批判される所以でしょう。しかし革新陣営側からの批判が妥当のものかどうかは「進化学」が何を目指す学問なのかに関わってきます。

*1:あえて「生き残る」の主語を省いて書いています。後述。