進化論の衝突: まとめ

保守陣営による「進化の本質」をもう一度まとめます。

  1. 自然選択
  2. 遺伝的浮動
  3. 突然変異
  4. 遺伝的組み換え
  5. 遺伝子流動

つまり、遺伝子型の変化とその集団内での変動が進化そのものである、ということです。表現型の変異は進化のきっかけまたは結果に過ぎず、本質的ではない、ということになります。

これに対して変革陣営は、表現型あるいは遺伝子以外の継承に関わる現象を4つ挙げて、従来の総合説を乗り越えるとする「拡張総合説」を唱えます。それらの現象とは

  1. 発生のバイアス
  2. ニッチ形成
  3. 表現型可塑性
  4. 非遺伝学的継承

ですが、最後の非遺伝学的継承については、「遺伝子以外にも継承されるものがある」と特に強調されています。しかしさすがに遺伝的に固定されないものを「進化」と呼ぶのは無理があるのではないかと思います。「ニッチ形成」に関しては、保守陣営は、すでにその枠内で長いこと(ダーウィン以来!)研究していると主張します。「発生のバイアス」に関しては、自然選択が作用する表現型の範囲を規定するという意味では影響があるだろうけれども、最終的に意味のあるのは遺伝する形質の差異であるとして、その本質的重要性を認めません。同様に表現型可塑性についても、遺伝的要因で生じた可塑性の度合いは進化のきっかけまたは結果としての重要性しか認めません。

こうして、変革陣営の主張はことごとく空振りに終わります。変革陣営の論理の何がまずかったのかを見るために、保守陣営の言う「進化の本質」をもう一度見てみると、「自然選択」以外は全て遺伝子型レベルの現象です。変革陣営の主張は主に表現型レベルの現象に関するものです。自然選択は生物個体の表現型に対して働きますが、表現型は遺伝子型に由来する寄与と個体発生の過程で生じた後天的(獲得された)寄与からなります。保守陣営の主張の要点は「遺伝子変異に起因する表現型変異で自然選択にかかるもののみが進化(遺伝子変異の固定化)に寄与する」というものです。したがってこの論理を崩すとすれば、「遺伝子変異に起因しない表現型変異で自然選択にかかるもの」が存在すればよいことになります。遺伝子変異に起因しない表現型変異とは、表現型可塑性です。自然選択はもちろん表現型変異に働きます。したがって、もともと表現型可塑性によって生じた表現型変異が何らかの機構で遺伝子変異に置き換わることができればよい、ということになります。これは可能なのでしょうか?

実はそのような現象は60年ほど前から「遺伝的同化」として知られています。始めは遺伝子変異を伴わない形質の変異が、世代を経るごとに遺伝的に固定化するという現象です。実際今回のディベートでも保守陣営がそれを指摘してますが、実験室の外での観察例がほとんどない、として態度を留保しています。 実験事実としての遺伝的同化は長く知られていましたが、それを満足に説明できる理論はありませんでした。

遺伝的同化を説明できる理論とその自然環境での観測が、どうやら鍵となりそうです。